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四国アイランドリーグplus運営会社長と日本独立リーグ野球機構会長を兼任する馬郡健氏
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20年目の四国独立リーグ

 設立から20年を迎えた野球の独立リーグ「四国アイランドリーグplus(四国ILp)」。2005年の発足以降、地域密着のコンセプトを貫いて定着し、日本野球機構(NPB)の球団に多くの選手を送り出すようになった。NPBへの登竜門と認識されるまでになったこの20年と、この先の未来予想図をリーグ運営会社「IBLJ」の馬郡健社長(45)に聞いた。

 ――2019年に社長に就任し、5年連続でリーグは経常黒字です。

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 「球団は地元の企業と、我々リーグ側は東京や大阪の企業と、スポンサー契約を結ばせてもらっています。『痩せているけどがんばっている』と私はよく言います。1試合平均300人の観客しかいないと言われてしまうんですが、逆に、それだけのイベントを年間140回もやれる団体が四国には他にないんです」

 「そして、地元とのつながりは非常に強い。集客が限られているからスポンサー費は、NPBの球場に広告を出す費用に比べてぐっと抑えられる。四国でのPRや事業展開を考えている都心部の企業にとって、コストとしては見合うと思います」

 ――リーグは過去、経営危機もありました。

 「収入を増やすのと同時に、大幅な経費削減を行いました。契機は20年のコロナ禍。人の移動が制限され、球団を訪ねて行くこともできなくなった。だから、早い段階からオンラインツールをどんどん導入したんです。借りていた事務所を安価なシェアオフィスに移し、コピー機などの設備を含め固定費を大きく削減しました。無駄をそぎ落としたことで、骨太になった感じです」

 ――マイナスなことが多かった時期が、結果としてプラスの変化につながったんですね。

 「かつては公式記録を報道向けにリリースする作業に追われ、職員は午前1時まで事務所にいるという状態でした。このため、職員は年に数回しか球場で野球を見られない異常な状態だったんです。まず、送付方法をFAXからメールに変更。クラウド経由で公式記録を共有し、メディア向けの体裁に整える専門のスタッフを配置しました。そのスタッフは大阪在住で、リモートで作業してくれる。余裕ができた分、職員は球場に行って、スポンサーやお客さんの満足度を高めることに取り組めた。コストが圧縮でき、球場周りでやれることが増え、という好循環で徐々に立て直していった感じです」

 ――選手がNPB入りする構図が定着しました。裏を返せば人気選手が毎年抜けます。

 「独立リーグのファンはNPBのファンと少し違うんです。スターの原石を見つけるのが好きというか、『こいつ、四国にいたときから目を付けてたんだよ』というような人が結構、多い。高知なんかだと、球団の寮に近所の方々から食事が差し入れされるんです。『私のご飯を食べた選手がNPBに行った』とか、退団して地元に帰ったけど今でも連絡を取り合っているとか。お父さん、お母さんの気持ちみたいなものでしょうか。身近な世界でネットワークができて、応援されているというのがベースにあります」

 ――全国の独立リーグのなかには、元NPB選手を獲得して集客の目玉に据えるところもあります。

 「地元出身の選手を獲得して、盛り上げている球団もありますね。ただ、うちの場合は育成リーグの意味合いが強い。元NPBの選手はあまり受け入れないし、受け入れる場合もNPBに戻りたいという意思を持った選手だけです。元NPBのスターが入ってきたとして、その選手がポジションを取ると、未来のある若手にはチャンスがなくなってしまう。この先、NPBに行けるかもしれない可能性を一つ潰してしまうように見えるので、私はどうしても二の足を踏んでしまうんです」

 ――一時的な人気を求めるのではなく、自分たちの役割を重視している。

 「そういうスタンスです。お客さんを集めるのは大事ですが、それが独立リーグの評価のすべてだとは思っていません。実は、野球のために四国に来た選手がそのまま定住するケースが結構あるんです。地元の人と結婚した、農家になった、うどん屋を開いた、なんていう選手がいて。正直、人数は限られているかもしれないけれど、若い活力を与えている。1球団で40人の若手を全国から集め、住まわせる。その中から定住者も出る。地域にとってインパクトがあるし、貢献度は高いと思います」

 ――ローカルのつながりの一方、今年は徳島に所属する投手の白川恵翔選手が韓国のプロリーグに期限付き移籍。活躍しました。

 「韓国で相当な人気が出て、徳島に復帰後、韓国から女性ファンが何人も応援に来ていました。韓国や台湾のプロリーグの方が野球のレベルは高い。今後は海外との連携も考えていきたいです。同時に、海外選手の受け入れももっと進めたい。東南アジアなど野球新興国ではうちのリーグに出るだけで、母国ではヒーローですよね。そういう地域からNPBに行けるだけの選手はなかなかいないんですが、独立リーグを登竜門にしてもらいたい。我々としても、そこにビジネスの可能性が十分あるのかなと思っているんです」

 ――昨年は9人がドラフトで指名され、今年もNPBから注目を集める選手が複数います。

 「うちの年間王者を決めるトリドール杯チャンピオンシップを見ても、高いレベルの野球をやれているという自負はあります。今、我々は『独立リーグ』と名乗っていますが、何から独立しているのかよくわからないんですよ。NPBと一緒になるのはもちろん違うと思うんですが、あと一歩、高いリーグとしてブランディングしたいなという気持ちはあります」

 ――現在は4球団の対戦に加え、ソフトバンクの3軍と交流戦が公式戦になっています。

 「ソフトバンクの3軍って、(けがからの復帰戦などで)『億プレーヤー』が突然、試合に出るんです。その打者を打ち取った、その投手からヒットを打ったとなれば、12球団のスカウトの中で評価の軸ができる。NPBにつながる存在として、それに見合う環境を整えようということです」

 ――広がりを持たせれば第2のNPBになる、という声があります。かつては球団数を増やす拡大路線を取ったこともありました。

 「今、その発想はないです。私は日本独立リーグ野球機構の会長でもあり、全国のリーグを見ています。四国のやり方を北海道に当てはめても、うまく行くとは思えない。私たちは、育成リーグだと自分たちで割り切っています。やってきたことの結果が、NPBのドラフトで出ます。それで、シーズンが終わったあとの達成感が出るんです。これがNPBのまねごとに走った途端、何も残らないんです。ちょっと盛り上がったね、でもNPBよりは弱いよね、まあそうだよね、で終わってしまう。この先も、地域を理解した人たちが、地に足を着けた等身大の運営をしていくのが大事なんだと思うんです」(聞き手・松沢憲司、室田賢)

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